サイクリングのせいで病院のお世話になる大部分の人は、救急外来か整形外科を受診するものと思いますが、サイクリングによって泌尿器科のお世話になる方が、実は多いことをご存知でしょうか?
海外の研究では自転車の競技者(一週間に400km以上トレーニングをするサイクリスト)の61%に陰部神経障害による性器の感覚の麻痺がみられ、24%にEDの症状が見られたと報告されています。そのほかにも可能性は高くありませんが、陰部の皮膚炎、前立腺炎、精管断裂、血尿、陰茎血腫、持続勃起症、などがサイクリングによって引き起こされると指摘されています。自転車競技の最高峰ツール・ド・フランスの選手にいたっては、ほとんどの選手になんらかの陰部の異常が認められると言われています。また、水泳競技者と自転車競技者を比較した研究では、自転車競技者のED発症率が2倍であったとの報告もあります。
海外の文献ではサイクリングによって泌尿器疾患を起こしやすいリスク因子として、以下の項目が挙げられています。
・週3時間(おおよそ62km/週)以上、サイクリングをされる方
・年齢が50歳以上の方
・肥満の方(BMI 25以上) (体重が重いと陰部にかかる圧力が強くなります)
・高血圧、糖尿病、血管炎など、血管を障害する病気をお持ちの方
・10年以上サイクリングをされている方
・エアロハンドル(前傾姿勢になるハンドル)を使用している方
・競技用自転車等に用いられる、硬くて細いサドルを使用している方
・ペダルの抵抗が強すぎる(ギアが重すぎる)自転車を使用してる方
健康ブームとエコブームがあいまって、米国では300万人以上のサイクリングED の患者さんがいると推定されています。日本ではまだあまり認知度は高くありませんが、サイクリングが盛んな海外では自転車による泌尿器科受診は一般的といえます。
サイクリングによるEDをはじめとする泌尿器疾患は一度症状が出てしまうと、治りにくいものがほとんどです。サドルやハンドルを、速さよりも乗り心地を優先したものにすることや、パットつきのサイクリングスパッツを履く、乗る時間を一日2時間以内に抑えるなど、サイクリングを楽しみながらED等の泌尿器疾患のリスクと上手に付き合っていく工夫が必要です。
一方で適度な有酸素運動としてのサイクリングはストレス解消効果やメタボリックシンドローム予防効果があり、その点ではEDの改善や予防に有効ですので、一概に悪いことばかりではありません。何事も「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」ということですね・・・